Apr 23,2024

ISV AI Summit「生成 AI サービス開発のために何をすべきか」

先行パートナー様と日本マイクロソフトCTOによる​パネルディスカッション
開催レポート

2024 年 3 月 19 日(火)に、マイクロソフト品川オフィスにて開催された ISV AI Summit。今回の ISV サミットは AI の利活用にテーマを絞り、先進企業に学びながら、ISV パートナーやその顧客が AI 開発を行う際にどのような点に注意すべきか、またどのようなツールがあり、どのような支援が受けられるのかといった、ノウハウやユースケースの共有が行われました。

また、一方的なセミナー形式ではなく、パネル ディスカッションや Q & A を交えて双方向のコミュニケーションを図るセッションが行われ、議論は大いに白熱。会場を埋めた ISV パートナー各社の AI ムーブメントにかける熱意が伝わってくるセミナーとなりました。本稿では、当日のラウンドセッションの模様をレポートします。

<オープニング>

オープニング セッションでは、日本マイクロソフト株式会社 パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 ISVパートナー本部 本部長の清水 豊が登壇。「今日の情報を持ち帰っていただき、次のアクションに繋げて、AI の実装、マネタイズ、ビジネス化を一緒に進めていきたい」と述べ、Microsoft の AI 戦略について説明を行いました。

日本マイクロソフト株式会社
パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 ISVパートナー本部 本部長
清水 豊

清水はまず、AI への投資は 3.5 倍のリターンが期待できるというファクトを示し、マネタイズモデルの完成には多少時間はかかるものの「AI の可能性は無限大」であると実感を語ります。そして会場に「生成 AI を組み込んだ製品のリリースもしくは計画をしているか」を問いかけると、ほとんどの参加者が挙手。多くの ISV 関係者が、清水と同じく AI に可能性を感じていることが可視化された場面でした。

続いて清水は Microsoft 365 Copilot の機能を紹介。英語によるミーティングの録音データや 100 枚にも及ぶ PowerPoint のスライドから要約や質問への回答を生成できることを示して、生産性向上に役立つことを強調します。そのうえで清水は、Copilot の機能を使ってほしいというよりは、パートナー企業のソリューションに Copilot 機能を連携させて、生産性を向上させるための機能を実装させることを目指しているとし、ISV 企業との協力の重要性を強調しました。

最後に清水は、「Microsoft は、Copilot のプラグインや Azure OpenAI Serviceといった AI 対応ソリューションの実装を進めることにより、40 万社を超えるパートナーとの AI エコ システムを強化し、大きくしていきたい」との意欲を示して、オープニング セッションを終了しました。

「マイクロソフトの最新生成 AI の動向と Copilot のご紹介〜生成 AI でどのように自社ビジネスを伸ばすのか」

続いて登壇したのは日本マイクロソフト株式会社 パートナー事業本部 パートナー技術統括本部 第 2 技術戦略本部 本部長の内藤 稔。ゲストによる発表も交えて、先進的な ISV のユースケースや開発プロセスの紹介といった実践的な内容が語られました。

日本マイクロソフト株式会社
パートナー事業本部 パートナー技術統括本部 第 2 技術戦略本部 本部長
内藤 稔

まず内藤は、最新の AI 動向について解説。ChatGPT が 2 ヶ 月で 1 億ユーザーを獲得するなど AI は急速に普及しており、すでに多くの企業が AI の活用事例を生み出していること、Microsoft は OpenAI 社と提携して Azure OpenAI Service の提供、Azure OpenAI Service はすでにグローバルで 5 万 3000 社が導入していることを示して、「その 3 分の 1 が新規のお客さまであり、私たちも驚くほどの動きが起きている」と、実感を込めて語ります。

そして先進事例として 2 社の取り組みを紹介。三菱商事株式会社は文章の要約や状況把握に AI を活用しており、株式会社アイシンは、会話を文字に変換・要約することで聴覚障害者のコミュニケーション支援を行っています。内藤によれば、「OpenAIを活用している先進企業では、実はトリッキーなことをしているわけではなく、ベーシックなものを組み合わせて業務シナリオに組み込むパーツとして使っている」そうで、丹念に業務を掘り起こすことで活用シナリオが生み出されている傾向があるとのこと。また、今後ユーザーが生成 AI を使った業務に慣れるにつれて、生成 AI を使っていないアプリやサービスを使いにくく感じるようになるはず、との予想を示して「ユーザーが変わりつつあるという認識のアップデートが必要」だと述べました。

続いては Microsoft 製品の最新情報について。内藤は、セキュリティ分野ではAI がインシデント対応やログ分析、レポート作成などをサポートすることで、専門家でなくても円滑な業務遂行が可能になる Microsoft Copilot for Security が 2024 年 4 月 1 日にリリースされると報告。また、OpenAI の最新動向として、テキストだけでなく画像・動画・音声といったマルチ モーダル化が進むと語ります。内藤は、マルチ モーダル化が進むことで、多様なプロンプトが可能となり、新たな活用シナリオが開放されることが画期的であるとし、リアルタイムで音声の字幕処理や翻訳が行える Azure Open AI のWhisper モデルの機能紹介を行いました。

続いては「生成 AI をどうビジネスに活用するか」というテーマについて。内藤は、「まずは皆さんが Copilot を使っていただき、皆さんの Copilot を創っていただきたい」と語り、まずは Microsoft Copilot プラグインの作成、続いて Azure OpenAI Service を基盤とした Copilot の開発、最後にファイン チューニングや異なる LLM モデルでの構築といったステップを踏むことが、ビジネス活用への近道であることを示します。

ここで、パートナー企業である株式会社PHONE APPLI のビジネスデザイン部 テクニカルアライアンスマネージャ 白井 一真 氏が登壇。同社は、Microsoft Teams でのアプリ提供経験を活かして、Copilot プラグインとの連携を進めていることを発表しました。

株式会社PHONE APPLI
ビジネスデザイン部 テクニカルアライアンスマネージャ
白井 一真 氏

白井氏によると、Microsoft Teams をプラットフォームとして活用する企業の需要は高く、Copilot との連携によって PHONE APLLI 社のサービス利用率向上や業務プロセスの集約化が期待できるとのこと。また、既存のボット アプリを拡張する形で対応できるため、工数を抑えつつ大きな効果が見込めると白井氏。日本マイクロソフトからの手厚いサポートもあることから、「今がプラグイン対応の絶好のタイミングだと考えている」と述べました。

内藤はここでProvisioned Throughput Units (PTU) を紹介。予測可能なパフォーマンス 、予約済み処理機能、甲スループットワークロードにおいてはコスト削減が見込めることをアピール。続いてセッションは「具体的にどう検討を進めていくか」というテーマに移り、ここで登壇したのは日本マイクロソフト パートナー技術統括本部 第二技術戦略本部 パートナー テクノロジー ストラテジストの笹。AI開発を進める際のプロセスと Microsoft の支援策について解説が行われました。

日本マイクロソフト
パートナー技術統括本部 第二技術戦略本部
パートナー テクノロジー ストラテジスト
笹 結希


笹は、AI 開発のプロセスにおいては、アイデア出し→優先順位付け→開発計画→PoC→ローンチという流れがあることを示し、Microsoft ではプロセスの各フェーズに合わせた支援策を用意していると語ります。例えばアイデア出しの段階では AI アイデアソンを、優先順位付けでは BXT フレームワークを活用したワークショップを、また開発フェーズではFastTrack プログラムによるアーキテクチャ設計支援や、PoC に向けた Azure Innovate プログラムによるオファリングも用意されています。笹は「パートナー企業の要望やフェーズに応じて必要な支援策を提供しているため、ぜひ相談してほしい」と呼びかけて解説を終了しました。

最後に内藤は、Microsoft 自身も大きな変革を遂げてきたことについて触れます。Microsoft では、従来のソフトウェア販売モデルから、クラウド プラットフォームでのサービス提供を前提としたサブスクリプション モデルへの移行を進めてきました。内藤は、変革に際しては、プロダクトだけでなく、ビジネス モデルやオペレーション、カルチャーも合わせて見直すことが重要だと強調。例えば部門ごとで対立するような組織体制を、各部門との連携を強化して協働で取り組む方向に変革を進めてきたそうです。

内藤は「製品の機能や売り方だけを変えても難しい。横断的に変えていくことが大切」と、AI の普及は、既存の強みを活かしつつ、新たな価値提供へのシフトを図るタイミングかもしれないことを示唆しつつ、「Microsoft は、ここにいる皆さまと皆さまのお客さまが、より多くのことができるように継続支援してまいります」と語りかけてセッションを締めくくりました。

「生成 AI 活用動向と最新事例の紹介」

日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務 最高技術責任者
野嵜 弘倫

パネル ディスカッションに先立って行われた野嵜のセッションでは、生成 AIの活用動向と最新事例が詳細に語られました。経済産業省のデータでは AI によってもたらされる経済効果は2025 年末までに我が国全体で 34 兆円が見込まれているとのこと。また、Azure OpenAI Service の導入企業も、わずか 10 ヶ 月で 4500 社から5 万3000 社以上に急増しており、このことからもさまざまな業種で AI の可能性が追求されていることがわかります。

野嵜が示した Gartner 社の分類によると、AI の活用は、日々の業務と 将来へのAI開発に分類されます。前者は Bing や Edge に搭載された Copilot など日常的に活用する AI。後者は IoT デバイスや車両に搭載するなど、どちらかというと未来への投資として時間をかけて行われる研究開発向けのAI。現実的には 日々の業務 に偏りがちですが、野嵜はどちらも並行して勧めることが大切、と語ります。

将来へのAI投資 の具体的な事例として野嵜は、富士フイルムがインドで展開する人間ドックサービスを紹介。このサービスでは、AI を用いた舌がんの早期発見や、Azure OpenAI Service を活用したチャット ボットによる顧客対応の効率化、検診結果のレポート作成などが行われています。

また、先ほど内藤が紹介したアイシンの事例についても詳しく触れる野嵜。アイシンが開発した「YYProbe」は、Azure の音声認識技術を活用した聴覚障害者向けのコミュニケーション支援アプリで、現在 55 万ダウンロードという実績を残しています。

野嵜は実際にこの YYProbe によるリアルタイム字幕をモニターで表示して見せながら、「このアプリは聴覚障害者支援だけでなく、多言語同時通訳機能を追加することで、インバウンド観光客向けのサービスにも拡張されています」とその拡張性を強調。ホテルや JR の窓口などでも活用されており、これこそがまさに 将来へのAI投資の具現化であることを示します。

最後に野嵜は、AI アプリケーション開発の指針となる Microsoft のガイド ブックを紹介。日本マイクロソフトがユーザーの成長を支援する副操縦士としての役割を果たすことを強調して、セッションを終了しました。

生成 AI サービス開発のために何をすべきか」〜先行パートナー様と日本マイクロソフト CTO によるパネル ディスカッション

パネラー

AVEVA 株式会社
Industrial Platform & Application 事業本部 産業プラットフォーム担当部長
村林 智 氏

株式会社 ecbeing
執行役員 製品開発本部 部長
井上 英樹 氏

ビジネスエンジニアリング株式会社
プロダクト事業本部 営業本部 海外営業部 部長
佐々木 淳 氏

モデレーター
日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務 最高技術責任者
野嵜 弘倫

AVEVA 株式会社では、さまざまな製品を製造業向けに開発しています。現在はオンプレミスからハイブリッド クラウド戦略へとシフトしており、その根幹であるデータを活用する取り組みを進めています。同社は Azure OpenAI Service を活用して「Industrial AI Assistant」を開発。プラントの予兆検知システムなどに活用することを想定しています。

株式会社 ecbeing では、カスタマイズ可能な EC サイト構築パッケージの提供を行っています。レコメンド機能やレビュー ツールなどを SaaS で提供するビジネスの運営も行っており、マルチ テナント化された「AI デジタル スタッフ」というチャット ボット ツールは、月額 1 万円から利用することが可能です。

ビジネスエンジニアリング株式会社(B-EN-G)では Azure 上に構築された国際会計 & ERP のマルチ テナント サービス「GLASIAOUS(グラシアス)」を展開。世界 33 ヵ 国、1500 社以上の導入実績を誇ります。将来的には AI を活用した内部統制の高度化や経営戦略の支援まで行うロードマップを描いています。

以上の 3 社からキーマンを招いて、3 つのテーマについてパネル ディスカッションが行われました。

最初のテーマは「AI 戦略と取り組み」について。B-EN-G の佐々木氏によると、AI のユースケースをビジネスにどのように活用するかという課題については、同社ではコンソーシアム メンバーとの議論を通じて、AI でどんなサービスが置き換えられるかを検証し、開発を進めているとのこと。また、マネジメント層からは AI 活用を積極的に推進するよう求められており、他社も同様なのでは?という回答が行われました。

それに対して、「半年前だったらマネジメント層の反応も違ったでしょうね。AIに仕事を取られるのでは、本当に効率化できるのかと、心配される声が多かったですからね」と野嵜。佐々木氏は「マネジメント層も、将来を見据えて AI を製品のコアに取り込んでいかないと乗り遅れてしまう危機感を感じていると思います」と回答します。

一方井上氏は、 「当社は、実はマネジメント層の承認障壁はとても高かったです」と、当初は主にコスト面から不安の声が多かったことを明かします。それに対して井上氏らのグループは、まずはベータ版をつくって動かして見せ、納得させるという手法を採ったそうです。なんと、ChatGPT を活用したチャットボットを入職 4 年目のメンバーが 3 ヶ 月で開発したそうで、「ここ半年でマネジメント層に AI の重要性をインプットしたことでかなり会社の雰囲気が変わりました」とその成果を語ります。

続いてのテーマは、「技術戦略」について。村林氏は、井上氏のパターンと同様、ユースケースを実際に作ってみて、顧客のニーズに響きそうなものから始めたといいます。「クラウド利活用ができる開発チームが入ると、意外と簡単にできた感触でしたね」と村林氏。

佐々木氏は、Azure OpenAI Service を採用した戦略上の理由として、そもそも同社のGLASIAOUS(グラシアス)は、マルチ テナントで Azure 上にサービスを構築していたため、「Microsoft がうまい具合によいツールを置いてくれた」状況だったと語ります。一方で、現時点では安価に使えるが、将来の価格変動を憂慮していると、野嵜にコスト面の見通しを逆質問。野嵜はあくまで個人の見解と前置きしたうえで、他サービスとの競合などにより、そこまで価格が上昇することはないのではないか、と予想します。

井上氏によると、ecbeing では常に AI 技術の情報をキャッチ アップしており、さまざまなサービスを比較検討していると語ります。「ひとつのサービスに固執するのではなく、継続的に検討することが重要だと考えています」(井上氏)。

最後のテーマは「ガバナンス」について。

村林氏は、「情報の正確性の担保と適切なデータ管理が重要」と回答。ハルシネーションの防止やクラウド上でのデータの安全性確保を常に考えていると語ります。

佐々木氏も同様に、AI が間違った回答をしないようにするには、学習データの見直しとマニュアルのメンテナンスが大切であり、「Microsoft には、自信のない回答は保留したりアラートを出したりする機能の実装を期待しています」とリクエスト。野嵜も、生成 AI に備わっているサムズアップ機能が実は重要で、改善に役立てるためにもリアクションしてほしいと語ります。

最後に井上氏は、社内の機密情報、特にソース コードの管理が最優先であり、社内で AI を使える環境整備に注力していると自衛の大切さを述べます。また、従業員が先走らないように、マネジメント層に対して Copilot for Microsoft365  のライセンス導入の働きかけを行なっているそうです。

さらにパネリストは、会場からの質問にも答えていきました。

「海外展開を考えるときに筋が良さそうな AI の使い方は?」という質問に対して佐々木氏は、「私も知りたいのですが」と苦笑いしながら、「AI によって言葉の壁が取り払われるのは日本企業にとっては大きなメリット。各国の法制度をいち早くキャッチ アップして対応できれば、そのニーズは大きいと思う」と回答します。

また「4年目の社員が 3ヶ月でチャット ボットを開発できた背景にはどのような教育があったのですか?」という井上氏に向けた質問には「まず AI に興味を持ってくれたこと。年次が若くマネタイズへの意識はまだ低いため、常に刷り込むように心がけています」と、専任で開発させることとそのフォロー体制の大切さを回答としました。

そして「情報の収集方法、情報ソースについてのアドバイスを」というコメントに対して、井上氏は「ひとりだと限界があるので、数名で集まって情報を寄せ合うこと」と回答。佐々木氏は「今日この会場には当社の開発メンバーもいるので、この後の懇親会で話しかけてみてください」と回答して、パネル ディスカッションは終了となりました。

最後に野嵜から「実際に開発、運用されている企業の皆さまから貴重なお話が聞けたと思います。ビジネスを展開するなかで、開発のコストを下げつつ、どのように簡単に実装していくかは、ひとつのキーワードになるのではないでしょうか。ここが、製品やアイデア創出の機会になれば嬉しいです」と述べて、全セッションが終了となりました。

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