Feb 15,2021

【Success Story】日本通運株式会社と挑む物流の未来。クラウド ロボティクスの群制御で、人手不足に悩む物流センターの課題を解消へ

日本の物流センターが直面する課題と真摯に向き合い、「自律協働型ピッキングロボット (AMR)」を開発する多国籍チーム (Rapyuta Robotics株式会社)

日本経済と市民生活の大動脈を支える物流業界が担う責任は、コロナ禍によってさらに増しています。しかし一方で、少子高齢化が進む日本における物流業界は、長年にわたって深刻な人手不足に悩まされ続けてきました。日本通運株式会社 (以下、日本通運) のロジスティクス開発部では、この課題の解消に向けて先進の自動化技術などの情報収集を重ねてきたと言います。そして、2019 年の春。日本通運が「大きな可能性を感じた」として、新たなパートナーとして手を携えたのが、日本とインドに拠点を持つRapyuta Robotics株式会社が開発したクラウド ロボティクスでした。1 年におよぶテスト期間を終えて、本格的な運用をスタートさせているこのプロジェクトについて、お話を伺いました。

「安く、早く、小さく」最適解を実現するクラウド ロボティクス

Rapyuta Robotics株式会社 (以下、Rapyuta Robotics) は、スリランカ出身であり東京工業大学などで学んだ Gajan Mohanarajah 氏と Arudchelvan Krishnamoorthy 氏が日本で創業した、グローバルなベンチャー企業です。「マシンとマシンを繋げ、人々の生活を豊かにする」という理念を掲げてビジネスを展開しています。

同社 執行役員で Director of Business を務める森 亮 氏は、次のように説明します。

「当社のビジネスの主軸は、クラウド ロボティクス プラットフォームである『rapyuta.io』になります。このプラットフォームの特長を簡単に言うと、ロボティクスとクラウドを組み合わせることで『安く、早く、小さく』ソリューションを実現するものになります。その1例として現在注力しているのが協働型ピッキングアシストロボット (AMR) です」

Rapyuta Robotics の AMR は、液晶モニターとピッキング用の荷置き台を備えたシンプルなロボットです。障害物などを察知するセンサーと 3D カメラを備えており、倉庫内のスタッフに対しては相手が移動しようとしている方向を予測しながら余裕をもって回避したり、棚などの障害物に対しては最短ルートでギリギリの位置で回避して移動します。

倉庫内を自走する複数台の AMR は、クラウド上で動作している管理プログラムによって指定された荷物のある棚の前で停止し、近くにいる作業スタッフが指定の商品をピッキングしてくれるのを待ち、ピッキングが完了すると次の棚番号を作業スタッフに示した後で移動していきます。このため、作業スタッフたちは最小限の工数でその日出荷する商品のピッキングを終えることができるようになっています。 そしてこの AMR は、今まさに日本通運の実際の物流センターの中で成長を続けているのです。

日本通運が目指す「人」と「テクノロジー」の相乗効果

日本通運 ロジスティクス開発部 課長 新藤 克典 氏は、Rapyuta Robotics の名前を早くから知っていたと言います。

「私たちは、人手不足を補うことができる自動化技術について、常に情報収集をしてきました。しかし、コストや機能など、さまざまな面で私たちのニーズに適したソリューションがなかなか見つからず、導入まで踏み切ることができずにいました。1 つ確実に言えるのは、当社としては倉庫内すべてをすぐに自動化する考えもなければ、『ロボットの機能に合わせて仕事をすることはない』ということです。あくまでも『人の力』と、新しいテクノロジーと組み合わせることで、より効率的なオペレーションを実現させていきたいと考えています。そして 2018 年 9月に Rapyuta Robotics の森さんから『実証実験からスタートさせて欲しい』という相談をいただきました。Rapyuta Robotics さんについての情報は知っていましたし、私たちの考えとも一致する部分が多くありました。そこで検討の末、導入に踏み切った次第です」

日本通運は、2019 年 1 月に Rapyuta Robotics の AMR 導入を決定。テストを行う舞台として平和島事業所内の 1 倉庫を選択すると諸々の準備を重ね、ゴールデンウィーク直前から活用範囲を限定したテスト運用を開始します。その後、夏の繁忙期に入るとテストをいったん休止するといったインターバルを挟みながら約 1 年の積み重ねを経て、2020 年 10 月からテストは第二段階へ移行。AMR を 10 台に増やして、より効率の良いピッキング作業の実現に向けた検証が、さらに重ねられています。

日本通運 平和島事業所 課長 岡本 弘之 氏は次のように話します。

「この倉庫は、9 時から 17 時まで通常 30 名体制で稼働しています。自社で販売・流通まで行っているメーカーが運営する 24 時間稼働の大型倉庫とは規模が違いますので、大掛かりなロボットを導入してもコストメリットは生まれません。また、ロボットのために倉庫内のレイアウトなどを大幅に変更するということも、現場のオペレーションを考えると現実的ではありません。その点、Rapyuta Robotics さんの AMR であれば、倉庫内のレイアウトも変えることなく運用できます。変更点と言えば、倉庫内に Wi-Fi のアンテナを立てて、管理用の PC を置いたぐらいです。この倉庫で成果が出れば、当社の運用するほかの倉庫にもそのまま転用できます。将来的には、ピッキングのアシストだけではなく、搬出入や梱包を行う自動フォークリフトやロボットアームまで『rapyuta.io』で一括管理できるということで、私たちとしても大いに期待しています」

高度な物流オペレーションの中で磨かれる「rapyuta.io」

日本通運の平和島事業所にて続けられている試験的運用では、AMR の走行速度の調整など、現場でしか得られないフィードバックを改善につなげて、クラウドを通じた群制御の精度を向上させています。

「運用を開始した当初は、今よりも AMR の移動速度を遅く設定してもらっていました。それでも『速い』と感じていたのです。けれど今は作業スタッフの方も慣れてきて、AMR の移動速度を『もう少し速くしてください』と、お願いしているところです。この倉庫には多くの当社社員が見学に来るのですが、今現在の AMR の動きを見てほとんど全員が『速い!』と言います。しかし、センサーによる衝突回避などもしっかりしていますし、一度慣れてしまえばまったく問題ありません。こうやって、人の習熟に合わせて動作を調整できるのも素晴らしいと思います」(岡本 氏)

こうしたメリットが生み出せるのも、クラウド ロボティクスならではのメリットだとRapyuta Robotics の Business Development Manager 小堀 貴之 氏は言います。

「ロボット側の機能を作り込む発想になってしまうと、開発コストもかかりますし、ロボット 1 台が高額になってしまいます。一方で当社の『rapyuta.io』はあくまでも、ロボットを制御するプラットフォームであり、ソフトウェア技術を中心としています。そのため、AMR などのロボット導入後も、現場からのフィードバックに応じた機能調整が比較的容易に行えます。これはとても重要なポイントです」

小堀 氏はさらに、日本通運と進めている本プロジェクトの重要性について、次のように強調します。 「日本の物流業界のオペレーションは、世界的に見てもとても良く練り上げられています。たとえば、倉庫のキャパシティを考えても、幅の狭い通路の中を、効率よくピッキングして回っています。熟練した作業スタッフの方々が持つ経験則も豊富で、綿々と引き継がれてきた暗黙知によって支えられている側面もあります。日本の高い品質基準の中で、人とロボットがうまく補完し合えるようになれば、『rapyuta.io』は世界中、どこに行っても通用するソリューションとして完成していくと考えています」

向かって左から、日本通運株式会社 ロジスティクス開発部 課長 新藤 克典 氏、同 平和島事業所課長 岡本 弘之 氏、Rapyuta Robotics社 Business Development Manager 小堀 貴之 氏

国境にとらわれないビジネスを、強力に支えるパートナーシップ

AMR などのロボットを群制御する「rapyuta.io」は、Microsoft Azure をプラットフォームとして稼働していますが、「Azure を選んだのは、純粋にビジネスの拡大を考えた結果」であると、森 氏は言います。

「実は、当社が創業した当初は別のクラウド サービスをプラットフォームとして利用していたのですが、ビジネス的な判断から Microsoft Azure に切り替えています。その根拠はいろいろあるのですが、まず 1 つ挙げられるのが、マイクロソフト自身がロボティクス事業に乗り出していないために、利益相反の心配なくパートナーシップが築けるという思惑がありました。そして 2 つ目が、日本マイクロソフトのスタートアップ支援のプログラムとの出会いです。正確に言いますと、Microsoft for Startups プログラムを担当されている方とのご縁があり、その後でプログラムの存在を知ったのですが……いずれにしても、当社にとっても魅力的なプログラムでした。3 つ目もその延長線上にある話なのですが、マイクロソフトのトップの 1 人であるジャンフィリップ クルトワ氏とのミーティングの機会をもらえたほかに、アメリカに行く度にキーマンを紹介してもらえたりと、非常に親密な関係性を通じたグローバルリーチの拡大を支援して頂けることが、当社にとっても重要でした。私たちは、国境にこだわることなく、グローバルにビジネスを拡大していくことを前提としています。マイクロソフトのパートナーネットワークを通じて、グローバルに信頼関係を構築できることや、世界中で充実したテクニカル サポートを受けられることは非常に大きなメリットです。日本で磨き上げたソリューションを世界に展開する上で、この上ないパートナーだと思っています」

■ Rapyuta Robotics株式会社 (https://www.rapyuta-robotics.com/ja/)