「ブロックチェーン技術で不動産情報を管理する」、この日本初のプロジェクトを推進し大きな注目を集めているのが、積水ハウス株式会社と株式会社bitFlyer です。なぜブロックチェーンなのか、なぜ「miyabi」を選んだのか、そして現在プロジェクトはどこまで進み、最終的に何を目指しているのでしょうか。積水ハウス株式会社の上田 和巳 氏と神谷 佳之 氏、株式会社bitFlyer の市薗 啓太 氏に、お話を伺いました。

積水ハウス株式会社 IT業務部 部長 上田 和巳 氏 (前列左)

積水ハウス株式会社 経営企画部 課長 賃貸住宅事業グループ グループリーダー 神谷 佳之 氏 (前列右)

株式会社 bitFlyer システム開発部 プロジェクトマネージャー 市薗 啓太 氏 (後列)

 

プロジェクトの経緯について

―― まずブロックチェーン技術を活用したこのプロジェクトの経緯についてお教えください。

上田 話が始まったのは 2016 年夏です。もともとはブロックチェーンありきではなく、新規事業の立ち上げを目指し、複数のベンチャー企業と意見交換を行っていました。その背景には、2017 年から 2019 年にかけて実行される「積水ハウスグループ 第 4 時中期経営計画」があります。当社はこの計画の中で、IoT AI に代表される IT 技術の飛躍的な進化などを視野に入れた「BEYOND 2020」という基本方針を打ち出しています。意見交換を行ったベンチャーの 1 社が株式会社bitFlyer (以下、bitFlyer) だったのですが、その話し合いの中で、ブロックチェーンを使った物件管理ができないか、というアイデアが出てきました。

 

―― 従来の物件管理には、どのような課題があったのですか。

上田 当社は住宅メーカーですが、「賃貸住宅シャーメゾン」による賃貸住宅経営の支援や、グループ会社の積和不動産株式会社 (以下、積和不動産) によるお部屋探しサービス「MAST」なども展開しています。賃貸住宅の契約では、入居者様が決まるたびに入居者様やオーナー様と FAX でやり取りを行っており、たいへん手間のかかる作業が必要でした。また継続的にシャーメゾンにお住まいの入居者様は家賃の支払い状況で信用度がわかるのですが、他の賃貸住宅からの新たな入居者様の場合には最初から審査をやり直す必要があり、これもなんとかしたいと考えていました。

―― システム化はされていないのですか。

上田 もちろんシステムはありますが、それらは各社個別となっており、新規の審査では何枚も紙の書類が必要になります。この問題を解決するには、個々の会社でのシステム化ではなく、業界横断型の情報共有が必要です。そこでブロックチェーンに着目したのです。

ブロックチェーンを活⽤した賃貸契約フローイメージ。ブロックチェーンと連携した Web サイトや専用アプリによって、

賃貸契約をホテル予約のように簡単にすることが目指されています。

 

ブロックチェーンに着目した 2 つの理由

―― なぜブロックチェーンだったのですか。

上田 大きく 2 つのポイントがあります。第 1 は管理者の必要がない P2P のしくみなので、フラットに運用できることです。これは他社と連携するうえで、重要なメリットになります。また P2P であれば入居者様個人が直接アクセスすることも容易になります。社内で運用されているシステムでは、お客様ごとに ID を発行して情報をコントロールする必要がありますが、ブロックチェーンであれば改ざんできないため、お客様が直接書き込んでも問題はありません。個人の情報を企業主体ではなく、個人主体で管理できることになります。これが第 2 のポイントです。

―― プロジェクトの実施が決まったのはいつごろですか。

上田 2017 3 月です。当時常務だった仲井社長と打ち合わせを行い、最終的にはコンソーシアムを立ち上げてブロックチェーン活用を業界に広げ、日本中の物件を共通基盤で管理することを目指すことになりました。

―― 2017 4 月にはプレス リリースが発表されていますね。ここから開発が始まったのですか。

神谷 その前に bitFlyer と要件定義を行っており、これに半年ほど費やしています。プレスリリースの段階ではイメージレベルの構想だったので、それをより具体化していく必要があったからです。2017 12 月にはどのデータをどう扱うかといった要件が決まり、開発に着手しました。基本モデルができたのは 2018 年春。2019 年初頭には、積和不動産が運営する「MAST CLUB PLUS」の入居者向けアプリと連携することになっています。

 

 

―― そこではどのようなデータが扱われているのですか。

神谷 物件情報を軸に、オーナー情報、契約情報、入居者情報、支払い実績などのアクティビティ情報などが紐付けられています。今後はこれに、物件の維持管理に関する修繕履歴なども追加していく予定です。

 

bitFlyer が提供する「miyabi」の魅力

―― ブロックチェーン型データベースとしては、bitFlyer の「miyabi」を採用していますね。

上田 何もないところからブロックチェーンの基盤を開発するのは時間がかかります。この開発期間を短縮するため miyabi を利用することにしました。bitFlyer はブロックチェーンの活用をビットコイン以外にも幅広く考えており、金融以外のパッケージも提供しています。そのため bitFlyer とであれば、迅速に開発が進むと評価しました。

市薗 当社のように自社でブロックチェーンを作って展開している企業は珍しいと思います。利用するブロックチェーンの特徴以外に、ブロックチェーンのメリットをどのように活かすかも重要な論点となります。当社は自社開発を通じて日々ブロックチェーンと向き合っており、お客様の課題をこれでどう解決するかといった、コンサルティングも併せて行います。他の大手 IT 企業と比較されることも多いのですが、自社開発したプラットフォームを持っている点やコンサルティングにも力を入れている点は、他の SIer に対する大きな優位性になっていると自負しています。

 

上田 フットワークの軽さも評価しています。もしほかの大手 IT 企業とやっていたら、もっと時間がかかっていたでしょう。プロジェクトのハンドリングもうまく、スムーズに進めることができました。

 

市薗 ブロックチェーンをどのように活用するのかという議論に時間がかかることが多いので、要件定義が長くなるケースが多いです。miyabi は複数のソリューションを既に用意しており、要件次第ですが開発期間を短縮できるケースも比較的多いです。

 

神谷 miyabi を採用したことで、大企業だけではなく中小企業も参加しやすいしくみになったことも、大きなメリットです。参加者がサーバーを立てる必要がなく、パソコンさえあればアクセスできるので、街の不動産屋さんも気軽に利用できます。

―― miyabi はシステム基盤として Microsoft Azure を使っていますが、このような点も意識しましたか。

神谷 他社と連携するためには、クラウド上で動くしくみの方が適していると思います。以前は個人情報を外に出すことに抵抗がありましたが、ここ数年でこの考え方も変わりつつあります。

 

市薗 実際、miyabi のセキュリティ管理の多くの部分は、Azure に依存しています。このような機能が用意されていることは、非常に重要だと考えています。特に秘密鍵をどう管理するかは、ブロックチェーンに欠かせない要素になります。Azure には「Azure Key Vault」という機能も用意されているため、秘密鍵の管理も安全に行なうことができると考えています。

 

今後の展開について

―― 最後に、今後の展開計画についてお教えください。

上田 まずはグループ会社である積和不動産での活用からスタートしますが、これと並行してグループ外の会社との実証実験も計画しています。既に数社と話を進めており、2019 年春には着手する予定です。最終的にはコンソーシアムを立ち上げ、不動産業界だけではなく他の業界でも活用可能な「情報バンク」へと発展させていきたいと考えています。

 

将来的なブロックチェーン活用イメージ。自社内で運用するだけではなく、コンソーシアムによる不動産業界全体での活用や、

他業種とも連携した業界横断型の活用も視野に入っています。

 

神谷 たとえば住宅ローンを組む時、この情報バンクを銀行が利用すれば、家賃の支払い実績の情報を基にした審査が可能になります。またその人の本人確認も、基本的には住所に紐付けられるので、賃貸契約などの居住実績情報がわかることで、信頼性が高まることになります。もちろん居住に関する情報だけではなく、多様な業界がそれぞれに関係する情報を補完していくことで、さらに活用しやすい情報バンクになっていくはずです。

 

上田 将来的にはデバイスとの連携も行いたいと考えています。たとえばスマートロックを使う場合、第三者が勝手に鍵をあけないように本人確認が必要ですが、ここにブロックチェーンの秘密鍵が使えます。また家族に権限を与える場合にも、ブロックチェーンで委任を行えます。民泊で鍵の権限を時限式で渡すといったことも考えられます。デバイスへの権限をブロックチェーンで扱うことで、様々なサービスが可能になるはずです。

―― 社内の評価はいかがですか。

上田 社長は「どんどんやれ」と言っています。これによって情報バンクのプラットフォーム確立を目指したいと考えています。

―― 夢が広がりますね。本日はありがとうございました。

 

株式会社bitFlyer

2014 年 1 月に設立された仮想通貨・ブロックチェーン企業。「ブロックチェーンで世界を簡単に。」をミッションに掲げ、仮想通貨・ブロックチェーンの技術開発を通じたイノベーションを目指しています。国内外より最先端技術に精通したエンジニアを採用し、ビットコイン月間取引量* において国内最大の仮想通貨取引所「bitFlyer」の運営や、自社開発のブロックチェーン「miyabi」を活用した新サービスの研究開発を手がけています。同時にビットコイン専用 EC サービス「ビットコインをつかう」や、当社経由の他社サービス利用で BTC を付与するサービス「ビットコインをもらう」を始めとしたエコシステムも展開し、ビットコインの利用促進や普及を進めています。

 

* Bitcoin 日本語情報サイト調べ。2016 11 – 2018 11 月、国内取引所の総月間出来高 (現物/差金決済/先物取引を含む)

 

積水ハウス株式会社

1960 年の設立以来、238 万戸を超える住宅を供給してきた住宅業界のリーディング カンパニー。先進の技術で快適な暮らしを実現する「SLOW & SMART」をブランド ビジョンに掲げ、住まいづくりや街づくりに取り組んでいます。また「技術力」「顧客基盤」「施工力」というコア コンピタンスを活かし、非住宅分野でも高い市場競争力を発揮。人生 100 年時代の住まいづくりにも真正面から向き合い、新たな価値を開拓し続けています。